医師の給与と税金の切っても切れない関係について
“医師、特に勤務医は多額納税者である”、これは副業をされている医師であれば、その身で痛感していることと思います。
日本ではその所得に対して、所得税や住民税といった税金と健康保険料や厚生年金、雇用保険などといった社会保険料が源泉徴収という形で徴収されています。
副業をしていない勤務医であれば確定申告が不要であることから、あまり実感がない場合もありますが、その場合でも額面での給与額と手取り額に大きな差があることは実感されていると思います。
ここでは
- なぜ納税額が多いのか
- どの程度納税をしているのか
- 納税額を減らすことはできるのか
についてみていきたいと思います。(※社会保険料は“税金”ではないため、社会保険料の支払いは納税とは異なりますが、今回は納税の話に含めて記載しています。)
① なぜ納税額が多いのか。
医師は高収入な職業の代表です。平成 28 年の職業別平均年収では医師は航空機操縦士(パイロット)に次いで、2 位となっています。
医師の年収は勤務医か開業医か、どの診療科の医師か、都市部で働いているか郊外で働いているかで大きく異なりますが、それでも他職種と比べれば一般に高収入で、2017 年時点での平均年収額は1233 万円とされています(厚生労働省調べ)。
この所得に関わる税金としては所得税と住民税があり、住民税の税率が課税所得に対しての 10%に対し、所得税は累進課税制度が導入されているため、金額により 0~45%まで変動します(下記表を参照)。
累進課税制度とは課税対象額が多ければ多いほど、課税対象額に対する税率が上がる仕組みのことで、単純累進課税と超過累進課税に分かれます。
単純累進課税は課税対象額が一定金額を超えた場合に“課税対象額全体”の税率が上がる制度、超過累進課税は課税対象額が一定金額を超えた場合に“超過した課税対象額”のみ税率が上がる制度で、日本では超過累進課税のみが採用されています。
この超過累進課税は所得税の他に相続税や贈与税に対して導入されています。
課税される所得金額(A) | 税率(B) | 控除額(C) |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
② どの程度納税をしているのか
税金にはお金を稼いだことに課税される“所得課税”、持っている資産に対して課税される“資産課税”、お金を使ったことに課税をされる“消費課税”があります。
所得課税については所得税や法人税、住民税などがあり、資産課税には相続税や贈与税、不動産所得税、固定資産税などがあります。消費課税には消費税や酒税、石油ガス税、自動車税などが含まれます。(下図参考)
収入に関わる“所得課税”について詳しく見ていくと、所得課税は国税として所得税、法人税、地方法人税、特別法人事業税、復興特別所得税があり、地方税として住民税、事業税があります。
この中で給与所得者(勤務医)が関係する税金は所得税、復興特別所得税、住民税であり、個人事業主(一部の開業医)では個人事業税がこれに加わります。また法人では法人税、法人事業税など課税方法が給与所得者や個人事業主とは大きく変わります。
税金とは別に支払う必要があるものとして、社会保険料があります。社会保険料は標準報酬月額ごとで支払額が決められており、給与所得が増えるにしたがって保険料も増えていきます。
社会保険には給与所得者が支払う“被保険者保険”と個人事業主などが支払う国民健康保険・国民年金があります。
被保険者保険には健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険があり、その支払いの一部を会社(事業主)が負担しています。※事業主負担分は給与明細には記載されておらず、額面での給与外で支払われています。※被保険者保険の事業主負担の割合については健康保険・介護保険・厚生年金保険は 1/2、雇用保険は 2/3、労災保険は 1(全額)となっています。
国税 | 地方税 | |
---|---|---|
所得課税 | 所得税 法人税 地方法人税 特別法人事業税 復興特別所得税 | 住民税 事業税 |
資産課税等 | 相続税・贈与税 登録免許税 印紙税 | 不動産取得税 固定資産税 特別土地保有税 法定外普通税 事業所税 都市計画税 水利地益税 共同施設税 宅地開発税 国民健康保険税 法定外目的税 |
国税 | 地方税 | |
---|---|---|
消費課税 | 消費税 酒税 たばこ税 たばこ特別税 揮発油税 地方揮発油税 石油ガス税 航空機燃料税 石油石炭税 電源開発促進税 自動車重量税 国際観光旅客税 関税 とん税 特別とん税 | 地方消費税 地方たばこ税 ゴルフ場利用税 軽油引取税 自動車税(環境性能割・種別割) 軽自動車税(環境性能割・種別割) 鉱区税 狩猟税 鉱産税 入湯税 |
さて、前置きが長くなりましたが、ここからは控除を利用しない場合の給与所得者の納税額についてみていきます。
※年収には残業代や通勤手当などを含めた収入全体を指します
※課税所得金額は子育て・介護世帯かどうか、配偶者の有無、扶養家族の有無などで変わってしまいます。今回は申請が必要な所得控除(配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除など)は使用していない場合で計算しています。
1. 年収 1000 万円の場合:所得課税 + 社会保険料 = 308.6 万 (年収の約 31%)
① 所得課税:156.6 万円(◆の合計額)
◆所得税額:605 万×20%-42.7 万 = 78.3 万(上図の所得税の税額表を参考)
課税所得金額(所得税):1000 万-195 万(給与所得控除)-48 万(基礎控除)-152 万(社会保険料控除) = 605 万
◆住民税額:所得割額 + 均等割額 = 76.7 万
課税所得金額(住民税):1000 万 - 195 万(給与所得控除) - 43 万(基礎控除) -152 万(社会保険料控除) = 610 万
所得割額:610 万 × 10% = 61 万 均等割額:約 0.5 万(地域により異なる)
◆復興特別所得税額:78.3 万(所得税額) × 2.1% = 1.6 万
② 社会保険料(県ごとで金額に違いあり)3):152 万
月額報酬:1000 万 ÷ 12 = 83.3 万(ボーナスの有無など様々要因で変わります)⇒ 40 等級
健康保険:8.2 万(自己負担額 4.1 万/月 ⇒ 49 万/年) (健康保険料率 9.84%(東京))
介護保険:1.5 万(自己負担額 0.75 万/月 ⇒ 9 万/年) (介護保険料率 1.8%(東京))
厚生年金:15.2 万(自己負担額 7.6 万 ⇒ 91 万/年) (厚生年金保険料率 18.3%(東京))
雇用保険:0.75 万(自己負担額 0.25 万 ⇒ 3 万/年) (雇用保険料率 0.9%)
労災保険:3 万(自己負担額なし) (労災保険率 0.3%)
2. 年収 1500 万円の場合:所得課税 + 社会保険料 = 519.9 万 (年収の約 34.6%)
① 所得課税::298.2 万円(◆の合計額)
◆所得税額:1045.3 万×33%-153.6 万 = 189.7 万(上図の所得税の税額表を参考)
課税所得金額(所得税):1500 万-195 万(給与所得控除)-48 万(基礎控除) -221.7万(社会保険料控除) = 1045.3 万
◆住民税額:所得割額 + 均等割額 = 104.5 万
課税所得金額(住民税):1500 万 - 195 万(給与所得控除) - 43 万(基礎控除) -221.7 万(社会保険料控除) = 1040.3 万
所得割額:1040.3 万 × 10% = 104 万 均等割額:約 0.5 万(地域により異なる)
◆復興特別所得税額:189.7 万(所得税額) × 2.1% = 4 万
② 社会保険料(県ごとで金額に違いあり)3):221.7 万
月額報酬:1500 万 ÷ 12 = 125 万(ボーナスの有無など様々要因で変わります)⇒ 47 等級
健康保険:11.9 万(自己負担額 5.95 万/月 ⇒ 71.4 万/年) (健康保険料率 9.84%(東京))
介護保険;2.2 万(自己負担額 1.1 万/月 ⇒ 13.1 万/年) (介護保険料率 1.8%(東京))
厚生年金:22.1 万(自己負担額 11.1 万 ⇒ 132.85 万/年)(厚生年金保険料率 18.3%(東京))
雇用保険:1.1 万(自己負担額 0.36 万 ⇒ 4.35 万/年) (雇用保険料率 0.9%)
労災保険:4.35 万(自己負担額なし) (労災保険率 0.3%)
3. 年収 2000 万円の場合:所得課税 + 社会保険料 = 754.3 万 (年収の約 37.7%)
① 所得課税::499.6 万円(◆の合計額)
◆所得税額:1502.3 万×33%-153.6 万 = 342.2 万(上図の所得税の税額表を参考)
課税所得金額(所得税):2000 万-195 万(給与所得控除)-48 万(基礎控除) -254.7 万(社会保険料控除) = 1502.3 万
◆住民税額:所得割額 + 均等割額 = 150.2 万
課税所得金額(住民税):2000 万 - 195 万(給与所得控除) - 43 万(基礎控除) -254.7 万(社会保険料控除) = 1497.3 万
所得割額:1497.3 万 × 10% = 149.7 万 均等割額:約 0.5 万(地域により異なる)
◆復興特別所得税額:426.2 万(所得税額) × 2.1% = 7.2 万
② 社会保険料(県ごとで金額に違いあり)3):254.7 万
月額報酬:2000 万 ÷ 12 = 166.7 万(ボーナスの有無など様々要因で変わります)⇒ 50 等級
健康保険:13.7 万(自己負担額 6.8 万/月 ⇒ 82.1 万/年) (健康保険料率 9.84%(東京))
介護保険;2.5 万(自己負担額 1.25 万/月 ⇒ 15 万/年) (介護保険料率 1.8%(東京))
厚生年金:25.4 万(自己負担額 12.7 万 ⇒ 152.6 万/年)(厚生年金保険料率 18.3%(東京))
雇用保険:1.25 万(自己負担額 0.4 万 ⇒ 5 万/年) (雇用保険料率 0.9%)
労災保険:5 万(自己負担額なし) (労災保険率 0.3%)
4. 年収 2500 万円の場合:所得課税 + 社会保険料 = 1004 万 (年収の約 40.2%)
① 所得課税::749.3 万円(◆の合計額)
◆所得税額:2034.3 万×40%-279.6 万 = 534.1 万(上図の所得税の税額表を参考)
課税所得金額(所得税):2500 万-195 万(給与所得控除)-16 万(基礎控除) -254.7 万(社会保険料控除)= 2034.3 万
◆住民税額:所得割額 + 均等割額 = 204 万
課税所得金額(住民税):2500 万 - 195 万(給与所得控除) - 15 万(基礎控除) -254.7 万(社会保険料控除)= 2035.3 万
所得割額:2035.3 万 × 10% = 203.5 万 均等割額:約 0.5 万(地域により異なる)
◆復興特別所得税額:636 万(所得税額) × 2.1% = 11.2 万
② 社会保険料(県ごとで金額に違いあり)3):254.7 万
月額報酬:2500 万 ÷ 12 = 208.3 万(ボーナスの有無など様々要因で変わります)⇒ 50 等級
健康保険:13.7 万(自己負担額 6.8 万/月 ⇒ 82.1 万/年) (健康保険料率 9.84%(東京))
介護保険:2.5 万(自己負担額 1.25 万/月 ⇒ 15 万/年) (介護保険料率 1.8%(東京))
厚生年金:25.4 万(自己負担額 12.7 万 ⇒ 152.6 万/年)(厚生年金保険料率 18.3%(東京))
雇用保険:1.25 万(自己負担額 0.4 万 ⇒ 5 万/年) (雇用保険料率 0.9%)
労災保険:5 万(自己負担額なし) (労災保険率 0.3%)
③ 納税額を減らすこと(節税)はできるのか
源泉徴収が行われているため、あまり実感がない方もいるかもしれませんが、節税を全く行わない場合には年収 1500 万円になると、納税額も年収の 35%近くになることがわかりました。
収入の 1/3 を受け取る前に納税していると考えると、かなり多いことに気付かれたのではないでしょうか。
では、節税にはどんなものがあるのか?脱税との違いは何か?をみていきます。
まずは節税と脱税の違いですが、節税は社会的なルールに則って合法的に税金額を軽くすることであり、脱税はそのルールを逸脱して行う違法行為となります。
節税になるか、脱税になるかの解釈に関しては境界が不明瞭な部分も多いため、ここでは明確に節税と言える内容について説明します。
節税の方法は大きく分けると、
- 所得控除を利用すること
- 税額控除を利用すること
- 経費を正しく計上することです。
① 所得控除4)を利用する
所得控除は所得から控除額を差し引くことができる制度です。全部で 15 種類あり、その種類は次の通りです。
雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除
それぞれの控除を端的に表すと以下の通りになります。
- 雑損控除:災害、盗難、横領により生活に必要な財産を失った場合に適応
- 医療費控除:年間に 10 万円以上の医療費(自己負担額)がある場合に適応
- 社会保険料控除:社会保険料を支払っている場合に適応
- 小規模企業共済等掛金控除:小規模企業共済掛金や確定拠出年金を支払っている場合に適応 (つみたて NISA や iDeco など)
- 生命保険料控除:生命保険、個人年金、介護医療の保険料を支払っている場合に適応
- 地震保険料控除地震保険などの損害保険料を支払っている場合に適応
- 寄附金控除:国や公益法人などに特定の寄付金を支払った場合に適応(ふるさと納税など)
- 障害者控除:自分や控除対象配偶者、扶養家族が障害者の場合に適応
- 寡婦控除:夫と死別しており、合計所得金額が 500 万円以下である場合。または、夫と離婚しており、合計所得金額が 500 万円以下で扶養家族がいる場合に適応(男性には適応なし)
- ひとり親控除:ひとり親(夫または妻と離婚/死別している、または未婚)で生計を同じくする子供がいる場合に適応
- 勤労学生控除:納税者自身が勤労学生に該当する場合に適応
- 配偶者控除:合計所得が 48 万円以下の配偶者がいる場合に適応
- 配偶者特別控除:年間合計所得金額が 48 万円超 133 万円以下の配偶者がいる場合に適応
- 扶養控除:控除対象扶養親族がいる場合に適応
- 基礎控除:本人所得が 2,500 万円以下の場合に適応
控除対象となっている場合には、以上の控除をしっかりと申請することで節税となります。
給与所得者の場合には医療費控除、雑損控除、寄附金控除以外のものは雇用主が年末調整を行っています。
② 税額控除5)を利用する
税額控除とは控除額を直接所得税から差し引くことができる制度です。
税額控除には住宅ローン控除、配当控除、外国税額控除、源泉徴収税額、災害減免額があります。
それぞれの控除を端的に表すと以下の通りになります。
- 住宅ローン控除:住宅ローンを組んで、マイホームを新築・購入・増改築した場合に適応
- 配当控除:配当所得がある場合で総合課税を選んだ場合に適応
- 外国税額控除:納付した外国所得税などがある場合に適応
- 災害減免額:自然災害や火災などで、住宅や家財に損害を受けた場合に適応
③ 経費を正しく計上する。
給与所得のみの場合には、給与所得に関わる経費として定額の給与所得控除が適応されるため、特殊な場合(給与所得者の特定支出控除の特例)を除いて経費の計上は困難です。
雑所得がある場合には雑所得を得るために関わった費用については経費として計上可能です。
※雑所得を経費と相殺してマイナスとなった場合でも給与所得との損益通算はできません。
以上が節税のために使用できる控除や経費の考え方になります。上記に当てはまる場合にはしっかりと控除の利用、経費計上をすることで納税額を減らせる可能性があるため、一考していただくことをお勧めします。
参考文献
- 国税庁. 所得税の税率: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- 財務省. 税の種類に関する資料. 国税・地方税の税目・内訳: https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a01.htm
- 全国健康保険協会. 令和3年度保険料額表(令和3年3月分から)https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/r03/r3ryougakuhyou3gatukara/
- 国税庁. 所得金額から差し引かれる金額(所得控除): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/shoto320.htm
- 国税庁. 税金から差し引かれる金額(税額控除): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/shoto321.htm