皆様は、確定申告書をご自身で作成しているでしょうか。
医師である私は、医師3年目より確定申告を毎年自分で行っていました。
初めて自分で書類を作成したときに、給与所得以外にも、多くの所得の欄があることにびっくりしました。一方で、「自分には関係ないな」と感じて、給与所得の欄以外にはあまり興味を持たないまま過ごしていました。
臨床業務以外にも、いろいろなことに興味を持つようになり、株式投資や投資信託、あるいは他の副業を行うようになると、「これは事業所得なの?雑所得なの?」という疑問を持つようになると思います。
副業所得を得たら、確定申告をしっかり行う必要がありますので、説明していきますね。
事業所得とは?
事業所得は、事業として業務を行って得られた所得のことです。
「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」と定義されています。(昭和56年4月24日最高裁判決)
また、国税庁のHPでは、「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得」をいいます。
ただし、「不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は事業所得ではなく、原則として不動産所得や山林所得になります。」
と記載されています。(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1350.htm)
事業所得として認められるかどうかについては、一定の判断材料があります。
- 継続した期間で安定した収入が得られること
- 儲かる可能性があること
- 相当な時間を費やしていること
- 職業として認知されていること
などの要素から税務署で総合的に判断されます。
雑所得とは
雑所得とは、給与所得や事業所得、不動産所得など9種類の所得に、当てはまらないもののことをいいます。
多くの副業で得た所得は雑所得に分類されると考えて良いと思います。講演発表や原稿執筆した際の報酬やポイントサイトで得たポイントも含まれます。
国税庁のHPでは、
「雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも当たらない所得をいい、例えば、公的年金等、非営業用貸金の利子、副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)が該当します。」
と記載されています。(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1500.htm)
事業所得と考えていたけれど、税務署から雑所得と判断される場合があります。これは後で詳しく説明しますが、事業所得と雑所得の境界は難しいところがあるのです。事業規模によるところも大きな要素です。
副業を始める方は、まずは雑所得で計上するのが間違いないでしょう。
医師の雑所得にはどんなものが多いのか
- ポイントサイトで得られるポイント
- 著作物の原稿料や印税による収益
- 講演料(講師料、謝金)
- 遠隔読影による報酬
- 金融商品投資(FXや暗号通貨など)による収入
一般的には、これらが多いのではないでしょうか。
①ポイントサイトで得られるポイント:総合課税
ポイントサイトでは、多くのアンケートなどが開催され、それに答えていくことでポイントが得られます。医師限定サイトでは、そのポイント単価が高めであることが特徴です。Amazonポイントやギフトカード、現金などへ交換できます。
ただ、ポイントは現金に交換しなければ課税対象ではない、ということではありません。最近になって国税庁がポイントの取り扱いについて公表していますので、今後整備されていくことでしょう。
ポイントサイトでは、インタビューやアンケートなどの役務提供の対価としてポイントが付与されているので、雑所得となります。
ポイントの保有時点では非課税ですが、使用(換金)時点に課税対象になります。雑所得であれば経費を差し引いて20万円超であると確定申告が必要になります。
②著作物の原稿料や印税による収益:総合課税
専門書やWEB記事などでの執筆では、原稿料が発生します。
また、専門書では印税収入も発生することがあります。
この執筆を行うために必要であった書籍代やセミナー参加費なども経費として計上することが可能です。さらに、誰かとミーティングをした場合に必要であった、移動費や旅費も経費に認められます。
③講演料(講師料、謝金):総合課税
講演の依頼があっても、それに対する報酬が発生します。この講演料に対しても経費は認められますので、講演の準備として必要であった勉強代などは経費計上できます。
④遠隔読影による報酬:総合課税
主に、放射線科医が行うものですが、他診療科医でも行う業務に、遠隔読影があります。CTやMRIをはじめとした各種画像検査の読影を行う業務です。
この遠隔読影による報酬も雑所得であり、経費の計上ができます。遠隔読影に必要なパソコン購入代金、通信費、書籍代などが経費に認められます。
⑤金融商品投資(FXや暗号通貨など)による収入→国内FXは申告分離課税、海外FXは総合課税、暗号通貨は総合課税
医師の中には、FXなどの金融商品を投資対象としている方々も少なくないと思います。
FXでの所得は雑所得になりますが、課税方法が異なることが注意点になります。
FXでは、国内のFX業者を使う場合には申告分離課税です。一方で、国外の業者を使う場合には総合課税です。暗号通貨(仮想通貨)の場合は、総合課税になります。
なお、②③④については、業務拡大していくと、雑所得ではなく事業所得として判断される可能性があります。この点については、次項以降で説明していきます。
事業所得と雑所得のメリットとデメリット
結論から言いますと、事業所得は、雑所得より、明らかにお得です!
雑所得も事業所得も、収入から必要経費を引いて計算できる点では同じです。
事業所得 | 雑所得 | |
---|---|---|
①損益通算 | 可能 | 不可能 |
②65万か10万の青色申告控除 | 可能 | 不可能 |
③青色専従者控除 | 可能 | 不可能 |
④損失の繰越しと繰戻し | 可能 | 不可能 |
⑤30万円未満の一括償却 | 可能 | 不可能 |
①損益通算
副業を行うために、いろいろなものを仕入れたり購入したりすることもあると思います。
収入が少ないために赤字となってしまった場合は、事業所得であれば、赤字のまま事業所得を計上して、給与所得を含めた他の所得と合算すること(損益通算)で、全体の収入額を抑えることができます。
すると、所得税などの税負担を抑えられるというメリットがあります。
一方で、雑所得の場合には、損益通算は認められないため、仮に赤字の場合でも雑所得は0円として計上することになります。
②65万か10万の青色申告控除
事業所得の場合には、青色申告の承認を受けていれば、青色申告特別控除が受けられることは大きなメリットになります。
「複式簿記による記帳」「貸借対照表および損益計算書の提出」「申告期限内の申告」という要件を満たした場合には最高65万円の控除、それ以外の納税者には10万円の控除が認められます。
③青色専従者控除
事業主は、その事業で働く家族に専従者給与を支払うことができます。専従者給与を支払うことで、専従者控除を受けることが可能になり、税金面で優遇されます。
白色申告の事業専従者控除は、配偶者が86万円、その他の親族は1人あたり50万円と決められていますが、青色申告専従者給与は金額が決められていないため、妥当性のある報酬を設定できます。
④損失の繰越と繰り戻し
条件はありますが、事業で赤字(損失)が出たときに、その金額を翌年以降(最長3年間)に繰り越すことができます。翌年以降、黒字化して所得が発生した際に、繰越した赤字分と合算して節税が可能になります。
⑤30万円未満の一括償却
パソコンやプリンタなどの減価償却資産は、通常10万円以上であれば、何年かで減価償却するべきです。しかし、事業所得で青色申告の承認を受けていれば、30万円まで一括で償却して良いことになります。
これは事業所得?それとも雑所得?どの所得に分類される?
税務署では、副収入が雑所得と事業所得のいずれに該当するか、実情に合わせて判断しています。
ネットオークションやフリマアプリで得た収入
ネットオークションやフリマアプリなどで得た収入は、雑所得になります。そのため、売上から仕入れや経費などを除いた所得が20万円を超えると、確定申告が必要です。
一方、ネットオークションなどで販売したものが、衣類や雑貨などの自宅にある不用品の場合には、「生活用動産」として、所得が20万円を超えても確定申告は不要になります。
宝石や美術工芸品などの場合は、1点が30万円を超えると課税対象になりますが、購入代金や経費は差し引くことができるため、利益が30万円未満であれば確定申告は不要です。
クリニックや病院でバイトをした
医業での収入は基本的には給与所得に分類されます。そのため、クリニックや病院で臨床業務を行った際には、給与所得で申告する必要があります。
仮に、医業以外の収入であれば、副業として報酬を得られる可能性もありますが、事業者との相談になると思います。
株式・FX・投資信託
雑所得の中でも、「先物取引に係る雑所得等」3) として、特例で分離課税となっているため、ほかの所得と合算されません。
所得税15%と令和19年までは復興特別所得税2.1%、地方税5%となります。(参考:国税庁)
副業を事業所得として申告するためには
副業が、事業所得と雑所得どちらに該当するのか、というと、多くは雑所得として処理されやすい傾向にあります。
勤務医の場合には、常勤先からの相当額の給与がありますので、副業の事業規模や継続性といった観点からすると、趣味で行っていて一時的な小遣い稼ぎ程度の収入を得ているのだろうと判断されやすい、ということです。
ただ、事業所得のところで触れたように、以下のような例では事業所得に認められる可能性があります。
- 直近の数年間を見ると、1年間に何度も講演を定期的に行っている(反復継続性)
- しっかりとした利益を生み出している事業である(営利性)
- リスクをとって業務を行っている(戦略的に営業をかけて仕事を獲得している)
- 大多数の人が事業だと判断しそう(例えば、株やFXの一時的な利益は事業とは考えづらい)
個々のケースによると思いますので、参考としておいてください。
もちろん、給与所得者でも副業を事業所得として申告して、税務署で認められることもあります。
税務署に呼び出されて申告内容について問われたときに、事業と認められるだけの用意をしておくことが必要です。どの程度の収入規模か、労働力や物を費やしているか説明し、事業として成立していることを納得してもらう必要があります。
これはとてもハードルが高いので、給与所得者は副業を雑所得とみなされることが多いと考えて、はじめのうちは開始するのが良いと思います。
参考文献
- 国税庁 No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1350.htm
- 国税庁 No.1500 雑所得. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1500.htm
- 国税庁 No.1522 先物取引に係る雑所得等の課税の特例. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1522.htm